山と海の循環と地域文化を育む「間伐」の役割とは?
美しい海は、豊かな山から生まれます。豊かな山は栄養豊富な土壌を育み、その土壌がきれいな川の水をつくり、その流れが海を豊かにします。山と海は切り離された存在ではなく、ひとつの循環のなかで支え合いながら成り立っています。この記事では、山と海のつながりをひも解きながら、山と海の循環を守るために欠かせない間伐の役割や、箱根の山と湘南の海が支え合ってきた歴史についてご紹介します。
◎ 見えない部分でつながっている?山と海の関係性
山と海は一見すると互いに独立しているように見えますが、実際は非常に密接な関係にあります。山に降った雨が土壌にしみ込み、その土壌に含まれるこれらの元素がやがて川の流れに乗って海へと流れ込みます。この過程で、山は土を育て、土は水を蓄え、川が栄養を運び、豊かな海をつくります。山と海は連続した環境であり、山の状態が変化すれば海の環境に影響を与えます。山と海の関係性をひも解いていくと、その基点は山にあることがわかります。
森林では落ち葉や木の枝などが長い時間をかけて分解され、栄養分を多く含んだ豊かな土壌が形成されます。この土壌には雨水をゆっくり吸収し、蓄える働きがあります。健全な森林によって育まれた土壌は、単に植物の成長を支えるだけでなく水の循環を安定させ、山と海の関係の起点となります。豊かな土壌に蓄えられた雨水は少しずつ地中を流れ、濁りの少ない水となって川へと注がれます。土壌の状態が良好であればあるほど、このきれいな水が安定して供給され、濁りの少ない状態で下流へと運ばれます。このような土の働きによって川の流れが維持され、山と海をつなぐ水の道ができあがります。
川は山で育まれた栄養分や有機物を海へと運びます。山と海のよい循環を生み出すためにとくに重要なのが、森林の植物の分解によって生まれる窒素やリン、ケイ素、鉄分などの元素です。これらは海中のプランクトンが光合成を行うために欠かせない栄養素です。なかでも森林土壌ができる過程でつくられる鉄分は沿岸部に生息する植物プランクトンの成長・増殖を促す重要な元素として知られ、山と海の密接な関係を示す要素のひとつとされています。植物プランクトンがつくる有機物は、動物プランクトンや魚介類へとつながる食物連鎖の出発点となります。森林で生まれた栄養分が川を通して海へ届けられることで、海の生物の多様性や漁場の豊かさが支えられています。全く性質の異なるように見える山と海も、見えない部分で深くつながっているのです。
◎ 山や海の豊かさが生み出す地域文化

山と海の循環は、人の営みや文化の形成にも深く関わっています。健全な山が育てた水が川となって海へと流れ込み、海の生態系を支えることで安定した漁場や美しい景観が形成されます。こうした山と海の循環によってもたらされる恵みは、古くから人々の生活基盤となり地域の発展を支える原動力となってきました。豊かな海により、漁業による水産資源の利用はもちろん海辺の景観や自然環境の美しさが観光資源としての価値を持ち、地域に新たな人の流れをつくり出します。山や海で採れる豊かな恵みが人を集め、人が集まれば町が形成され、地域独特の文化や暮らしが育まれます。山や海の資源は多様な産業を生み出し、地域内での分業を促します。森林資源は木材や燃料として利用され、海は漁業や流通を支え、川は水資源として生活や産業を支えます。山と海、それぞれの役割が連携することで地域全体の経済が成り立ち、相互に支え合う関係が築かれるのです。
とくに木材を使ったその土地特有の伝統工芸品は、ひとつの作品が完成するまでの工程が多く、いくつもの分業作業によって成り立っています。こうした分業の仕組みは単に経済活動を活性化させるだけでなく、人々のその土地に対する価値観や地域への愛着を育てる要素であり、地域性に奥行きを与える役割を担っています。山や海がそれぞれ単独では存在しえないように、それぞれの分業が機能してこそ地域文化が成り立ちます。さらに山や海が健全であることは、地域の持続的な発展を促します。山と海の健全な循環が保たれてこそ、自然の恵みをじゅうぶんに受け取れる社会が持続します。このように山と海の安定した関係は地域の歴史や文化を後世に残しつつ、未来の暮らしを守ることにつながります。
◎ 箱根の山と湘南の海が支え合ってきた歴史

山と海のつながりが地域を支えていることは、決して理論上だけの話ではありません。山と海と地域の関係性を裏付けるのが、箱根の山と湘南の海が長い時間をかけて築いてきた文化です。箱根の山と湘南の海は、古くから水の流れを通じて互いに影響し合い、地域や暮らしを支えてきました。箱根の中心にある箱根山は古来より火山活動が盛んで、それが栄養豊富な土壌が独特の地形や生態系をつくり、多くの生き物や植物が生息する森を育んできました。また箱根は降雨量にも恵まれた地域で、森林が蓄えた水が川となって下流に流れ、相模湾へと注ぎ込みます。このような水の流れは山と海をつなぐ重要な役割を果たし、湘南の海の環境を豊かなものにしてきました。
また箱根地域は、江戸時代より交通の主要拠点であった東海道を守るとともに、水源林として大切に管理されてきました。森林の適切な保全活動は土砂災害を防ぎ、安定した水を供給することにつながり、結果として山や海の環境を守ることでもあったからです。この山と海の関係が湘南地域に住む人々の暮らしや漁業の基盤を支えてきました。湘南の海は古くから豊かな漁場として知られていますが、これも山と海が深く関わってきた証です。山と海は、地図上では離れているように見えても、水の循環を通じて密接に結びつき、地域全体の環境と暮らしを支え合ってきた存在なのです。さらに近代以降、湘南地域は景勝地や観光地としても発展し、多くの人が集まり、古さと新しさが融合する独特の地域文化が根付きました。
このような山と海の相互関係から独自の地域文化が根付いた背景には、上流域の森林環境の保全が大きく関わっています。長い歴史のなかで培われた水源管理の技術が、安定した水の流れをつくり、豊かな海を守っています。この山と海の関係は現在も変わらず、間伐の取り組みをはじめとする森林の管理によって維持されています。
◎ 山と海と地域文化を循環させる間伐の取り組み

山と海は水の流れを通じて密接につながり、地域の自然環境や暮らしを支える基盤を形成しています。この山と海の循環を健全に保つために欠かせないのが、一部の木々を計画的に伐採して森林を適切に管理する間伐(かんばつ)です。間伐による山と海の保全活動が、地域の豊かな環境と暮らしを未来へと引き継ぐことにつながります。
〇間伐の重要性
間伐とは人工林でスギやヒノキなどを育てる過程でその一部を計画的に伐採し、森林の密度を調整する作業です。人工林とは、人がおもに木材生産を目的として樹木を計画的に植えた森林のことです。戦後の日本では復興期の住宅需要の高まりや治水事業を背景に各地で大規模な植林が進められ、箱根周辺の山にも人工林が造成されてきました。人工林では同じ種類の木が一定の間隔で植えられるため、成長とともに木々が過密になり日光が地表まで届かず下草が育ちにくくなります。適切な間伐によって光や風が森のなかに行きわたると、下草や微生物の働きが活発になり、豊かな土壌が保たれます。間伐によって生まれた健全な土壌は水をたっぷりと蓄え、ゆっくりと川へ送り出すため、山と海をつなぐ水の循環を安定させます。間伐は単に木々を減らすための伐採ではなく森林の機能を維持し、山や海の環境を守るための重要な取り組みです。豊かな森を将来にわたって維持しその恵みが海へと安定して届けられる、そんな山と海の良好な関係を持続させるうえでも、間伐は重要な役割を担っています。
〇間伐の不足が山や海に与える影響
間伐などの森林管理が適切に行われない森林では、樹木が過密状態になり、互いに養分や水分を奪い合おうとします。じゅうぶんに成長できない木々は根が伸びず貧弱になり、病気や害虫が発生しやすくなります。木々の健康状態が悪化すれば森に住む生き物のすみかが奪われ、食料不足や森の生態系のバランスを乱す原因となります。また根が張り巡らされていない地盤は不安定で、大雨の際に土砂崩れなどの自然災害が起こりやすくなります。流れ出た土砂は河川を通じて海へと運ばれ、水の濁りを引き起こし海の生態系に影響を及ぼします。海の栄養バランスの変化は植物プランクトンの繁殖や栄養を生み出す力にも影響し、それを主食とする魚介類などの生育環境を脅かす可能性があります。つまり、間伐が十分に行われなければ山と海、双方の環境に影響を与える要因となるのです。間伐は山の環境を整えるための作業であるとともに、海の豊かさや地域の未来を守る取り組みでもあります。山と海が支え合う循環を次世代に引き継ぐためには、間伐の重要性への理解と継続的な取り組みが求められます。
〇地域産業の発展を支える間伐材の有効活用性
間伐によって生まれる間伐材は、植林の本来の目的である建築資材としての使用には適していません。そのため、間伐を行っても活用されないまま、焼却処分されたり放置されたりしてきました。しかし近年では間伐材を地域資源として活用する考え方が重要視され、環境保全と地域産業を両立する動きも広がっています。たとえば間伐材は、紙製品や木工製品、家具などさまざまな用途に利用できます。その土地で育った木を使って、量産品ではなく地域分業によってその地域を訪れた人の思い出に残るものや、地域愛が感じられるものに再生させる取り組みが行われています。山と海を守るために生み出された間伐材を、その地域で使う地産地消の仕組みが整うことで、林業や木材産業が活性化します。また間伐材の利用が進めば森林整備の循環が生まれ、継続的な間伐の実施が可能になります。間伐の実施や間伐材利用の取り組みによって健全な森が維持されれば、土壌の保全や水源の維持につながり、山と海の環境が守られます。間伐材の有効活用による地域産業の発展や循環は、山と海が豊かであるからこそ生まれるのです。
◎ まとめ
山と海は切り離された存在ではなくひとつの循環のなかで結びついています。山や海の環境保全は、地域の暮らしや文化、産業の未来を担う重要なプロセスです。山と海の健全な関係を支える間伐と、間伐材の活用は、山や海の豊かな恵みを次世代へと引き継ぎ、持続可能な地域社会を構築する有効な方法のひとつです。SHONAN HAKONE PROMOTIONSでは、山と海、地域のつながりを大切に、箱根・湘南の本物の伝統を通してその土地の真の価値や環境保全について知ってもらう取り組みを行っております。本プロジェクトにご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。