BLOG

杉並木の再生利用で地域の価値を生み出す箱根の取り組み

2026.06.18

杉並木は、江戸時代に日本各地の主要な街道沿いにつくられました。現存する杉並木は歴史的価値のある史跡として守るべき一方で、安全上の問題からやむなく伐採という決断を下されるケースも後を絶ちません。このような背景から、伐採された杉並木の杉を再生利用し、後世に残す活動が箱根を中心に行われています。この記事では、箱根旧街道杉並木の事例をもとに、杉並木の歴史や課題、再生利用することでうまれる価値についてご紹介します。

◎人の暮らしとともにあった杉並木の歴史

箱根旧街道杉並木は、神奈川県箱根町の元箱根から恩賜箱根公園付近の旧東海道沿いに、約500メートルに渡って連なっています。かつてこの旧東街道では、旅人たちが深い緑に包まれた杉並木道を行き交っていました。樹高30メートルを超える杉並木の杉は、強い日差しや雨風から旅人たちを守り、長い旅路の助けとなっていました。箱根の杉並木が本格的に整備されたのは、江戸時代のことです。幕府は主要な街道の機能を高めるため、道沿いに樹木を植える政策を進めました。とくに杉は成長が早く、まっすぐ伸びる性質から街道沿いに植える木として適しており、各地で植樹が進められました。こうしてうまれた杉並木は、旅の目印となるだけでなく、旅人の安全を守る役割も果たしてきたのです。

杉並木は、江戸時代以降全国各地に広がり、地域ごとに異なる歴史を刻んできました。たとえば栃木県にある日光杉並木は、徳川家康に敬意を示すために日光東照宮に寄進されたものです。規則正しく連なるまっすぐな杉は、荘厳な空間の演出や人々を雨風から守るシェルターの役割を果たしてきました。また信仰の道としての趣を今に伝える、長野県の戸隠神社奥社参道の杉並木は、参道の神聖さを示す目的でつくられ、現在も厚い信仰の場を守っています。このように、杉並木は日本各地で長い年月をかけて地域の景観の一部として定着し、人々の記憶や文化と結びついていきました。街道を行き交う人々だけでなく、その土地に暮らす人々にとっても杉並木は身近な存在でした。現在、箱根や日光、戸隠の杉並木はいずれも地域の成り立ちや文化を象徴する存在として多くの人に親しまれています。また現存する杉並木は、歴史と人との関わりを今に伝える貴重な存在として大切に保護されています。

◎杉並木の保存と安全性をめぐる課題

杉並木の保存と安全性をめぐる課題

江戸時代から長い間人々の暮らしとともにあった杉並木ですが、保存や維持管理には多くの課題が伴います。とくに近年は樹木の老齢化や環境問題、自然災害の影響により、杉並木を従来のように守り続けることが難しくなってきています。杉並木の多くは江戸時代に植えられたものであり、現在では樹齢300年を超える木も少なくありません。杉は長寿である反面、内部は空洞化や腐食が起こりやすく、健康に見える木でも実は倒木リスクを抱えているのです。さらに台風や落雷、大雪といった自然災害も、杉並木に致命的なダメージを与える要因となります。強風による倒木、積雪による枝折れなどにより通行人や周辺インフラへの被害につながる可能性があるため、事前の対策が求められます。また、日光の杉並木は車道沿いに位置していることから交通量の増加による排気ガスの影響も問題となっており、インフラ整備との兼ね合いの難しさもあります。

このような理由から、杉並木の杉はやむを得ず伐採されるケースもあるのが現状です。実際、箱根旧街道の杉並木では現在約400本の杉が残っていますが、そのうち良好な健康状態を保っている木は約3割とされており、保全に向けた取り組みが続けられています。また、日光杉並木街道では、1960年代初頭の約16,500本から現在は約12,000本まで減少しており、この数十年の間に4,000本以上の杉が失われています。このような状況からも、歴史ある杉並木を維持していくことの難しさがうかがえます。

杉並木の保存には、自治体やボランティアなど多くの人たちの努力がありますが、それでも人命に関わる危険性がある場合は見過ごすことはできません。こうした安全を目的としたやむを得ない伐採は、日本各地の杉並木で行われており、保全の問題と伐採後の木材のいかし方が共通の課題となっています。このように、杉並木の維持には、安全性の確保と歴史的価値の継承という相反する要素が存在しています。長い年月をかけて受け継がれてきた貴重な財産をどのような形で守っていくかが、これからの杉並木のあり方を考えるうえでの重要なテーマといえるでしょう。

(参考:栃木県 日光杉並木保護

◎杉並木の再生利用という選択がもたらすもの

杉並木の再生利用という選択がもたらすもの

各地で杉並木の保全活動が行われるなか、近年では伐採された杉を再生利用して商品化する取り組みが行われ、新たな継承の形として受け入れられつつあります。杉並木の杉は地域と密接に関係する資源だからこそ、再生利用によってさまざまな価値を生み出すことができます。

〇文化や歴史の持続的な継承

杉並木は、江戸時代から現在に至るまで長い年月をかけて大切に受け継がれてきました。300年以上に渡って地域の景観をつくり、人々の暮らしとともにあった杉並木の歴史的価値の大きさを考えると、伐採するという行為は非常に大きな喪失感を伴います。しかし、たとえ伐採されたとしても形を変えて再生利用することで、単なる喪失ではなく未来への継承へと意味づけることができます。杉並木の再生利用は、歴史的価値のある命を人々の身近なところでいかし、守ろうとする姿勢の表れです。それは、歴史価値を保存するだけでなく、現代を生きる人の暮らしのなかへと取り戻す取り組みでもあります。文化の継承はその場に残すことだけが正解ではありません。再生し、人々の暮らしのなかで再び生き続けることで、人と歴史は新たな接点を持つことが可能になります。再生利用は、時代に合わせた形で文化を継承していく新たな手段といえるでしょう。

〇伐採の理由や保全活動への理解

杉並木の杉は、単に伐採され、廃棄処分されるだけでは、伐採されたことへのマイナスイメージしか与えられず、その裏にある懸命な保全活動や自治体の苦渋の決断について伝えることが難しくなります。しかし杉並木の杉を再生利用し新たな命を与えることで、その歴史や維持管理に関わった人々の努力を、商品を通して伝えることができます。再生利用した商品の販売によってうまれた利益は、再び杉並木の保全活動に役立てることもできるでしょう。再生利用によって歴史と人を結びつける考え方は、環境負荷の低減に貢献するだけでなく、地域内で価値を生み出し続ける持続可能な仕組みづくりにもつながります。限りある貴重な資源を廃棄せずに残す再生利用の取り組みは、歴史的財産を後世に残すための活動を周知するためにも欠かせない視点です。

〇地域価値の再構築

再生という言葉には、本来使われずに処分されるはずであったものに再び命を与え、新たな価値として再構築するという意味が込められています。とくに箱根旧街道杉並木の杉のように、歴史的背景を色濃く残す素材を、暮らしを彩る商品へと再生利用することは、日常的に歴史に触れることができるという新たな価値を生み出します。地域独自のストーリーや歴史は、ほかの素材にはない魅力や強みとなり、商品を通じて地域への共感や愛着を育てます。観光地の名産品や特産物もその土地を表す大切な要素ですが、杉並木の杉のように素材そのものが長い歴史を有するケースは決して多くはなく、歴史的価値のある資源を再生した商品の貴重さを物語っています。杉並木の再生利用は、地域の本当の価値を再構築できる可能性を秘めているのです。

◎箱根旧街道杉並木の再生利用に込められた想い

箱根旧街道杉並木の再生利用に込められた想い

杉並木の再生利用を具体的に進めている事例として、箱根旧街道杉並木の杉を活用した商品化の取り組みがあります。樹齢350年を超える杉の木材が、ワインホルダーやカッティングボード、鍋敷きなど、人々の暮らしに寄り添う製品として再生利用されています。歴史ある素材を日常のなかで使われるものに落とし込むことで、より身近な存在として感じられる点が再生利用の大きな魅力です。また、杉並木の杉を再生した商品は、木の状態や木目の出方によって同じものがひとつとして存在しません。長い年月を経て育まれた緻密な木肌や素材の表情が、そのまま商品の個性となり、量産品にはない価値を生み出します。この唯一無二の特徴を持つ杉を再生することによって、単なる木製品ではなく時間の積み重ねそのものを感じられる商品がうまれるのです。

箱根旧街道杉並木の杉を再生利用した商品は、箱根地域限定で販売されており、箱根の杉並木を実際に訪れた観光客が、その旅の記憶をお土産という形で持ち帰ることができます。現地で見た風景や感じた空気を形にして持ち帰る経験は、観光の満足度を高めるだけでなく、地域との持続的な関係性を生み出すきっかけにもなります。この箱根旧街道杉並木の再生という選択には、保全活動を全力で行ってもやむを得ず伐採せざるを得ない木があるという事実を伝える役割もあります。箱根の杉並木の取り組みは、単なる資源の有効活用ではありません。現状維持が難しくなった場合でも、身近なものに再生することで確実に後世に残していけるという可能性を示しているのです。

SHONAN HAKONE PROMOTHIONSでは、伐採され廃棄される運命にあった杉並木の杉を何とかして救い、新たな活躍の場を与えたいという想いで再生利用を行っております。私たちの取り組みについては、以下の記事もご覧ください。

関連記事:樹齢350年を超える箱根旧街道杉並木の杉を再生利用しています

◎ まとめ

江戸時代より人々の往来を見守ってきた杉並木の杉たちは、歴史の語り手として現在も懸命に生きようとしています。やむを得ず伐採されてしまった木を再生利用することは、木が持つ記憶を後世へと受け継ぐ新たな歴史継承の手段となるでしょう。SHONAN HAKONE PROMOTHIONSでは湘南・箱根地域を中心に、価値ある資源を再生利用し後世にその価値をつなぐ活動を行っております。プロジェクトにご興味がある方は、お気軽にご相談ください。